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面白い設定を聞いたので思いつきのまま。
短編の小話程度に。

辿り着けるのは鷹史さんかな、と思ったのでお借りしました。
鷹史さんの口調練習も兼ねて。前後編ですぐ終わるはず。






 目を開くとそこは竜宮城でも星の川でもなかった。
 一瞬だけ慌てたけれども、そこは不思議と居心地がよく感じた。冷静に考えれば何故、そんな風に感じたのか解せないところはある。
 まるで映写機か万華鏡の中に放り投げられたよう。どこの誰とも知れない誰かの記憶が、記録が、円筒形の壁一面のフィルムに焼き付いてくるくる回る。そんな場所を俺はゆっくりと僅かに働く重力の中を落ちていく。耳に響くのは竜宮から聞こえる歌じゃない。これは、人のためのクラシック。エリック・サティのジムノペディ。回し過ぎたレコード盤みたいにところどころが擦り切れる。
 ひとりの頭の中に収めるにはあまりにも膨大な数多の記憶。冷たく凍りついた瞬間もあれば、不意に泣きたくなるほど温かいものもある。ああ、そうか。誰かの、じゃない。これはきっとこの星に生まれたすべての人の。
 そう思ったとき、アナログ管のテレビを消すように映写機が停まった。無数の0と1の虚数空間が俺を“観測”した。
『――有機生命体の存在を確認。ドライブシフトによる誤差と判断。ビブリオテークによる観測を承認。インタフェース・プログラムを起動します』
 無機質な声が振ったと思ったら、シルクの絨毯に抱かれるような優しさで俺の身体は受け止められた。
 瞬けば一瞬のうちに辺りの風景は一変した。本棚。その向こうにまた本棚。四方を見回して、本、本、本。凄いな、アメリカの議会図書館に似ているけれど、もしかしたら、いや、もしかしなくともあの蔵書数を超えている。変な確信があった。レトロ調の机と椅子が誂えられ、その上には薄っすらと湯気を立てる温かな紅茶と焼き菓子が置いてあった。これは食べられるんだろうか。まるで不思議の国の茶会に招かれたアリスのようだ――なんて考えていたら、ヴン、と空を鳴らして目の前で粒子が人の形を取った。
「ようこそ、名も知らぬ訪問者(ゲスト)さま、ゆるりとお寛ぎください。……と言いたいところですが、あなたマジでどこから来ました? いくら時間とか世界線とか出鱈目な時空の狭間に落ちたとしても、何でこんな末端システムとリンクを繋いじゃうんです? あと観測できても解析が不明瞭とか、どちらさま? 割とガチで高次元の理屈を当て嵌めないと説明できないことだらけなんですけど、あなた」
 15歳くらい、だろうか。綺麗な少年の形を取った彼は、よく舌が回るらしく、本当に人間のように語りかけてきた。
 光ファイバーのようにどんな色の光も映す白い髪、ほんの僅かに憂うラベンダー・グロスブルーの瞳。線は細く、身長もあまりない。その痩躯に不似合いなメカニカルレッドのヘッドフォンを装着し、オーバルデザインの眼鏡越しに呆れたような、困ったような視線を投げかけてくる。
 どうしようもない違和感。何だろうか。明らかに人間ではないのに、人間であるかのような。絶対に両立するはずがない命題PとQの論理積が存在してしまっているかのような。
「あの、聞いてます? というかきちんと言語通じてます? オールグリーン?」
「通じているよ。ごめん、何か迷い込んでしまったみたいだ。ここは? 君は誰?」
「はあ。A.D.暦と解析されている人間の脳波に何故S.D.暦並、いや、それ以上のドライブ能力が見られるってどういうことなんでしょう。チートを通り越して地球外生命体と対話しているこの感じ」
 彼の言う“観測”とは、どうやらそういった情報を読み解くためのプロトコルらしい。なるほど、“観測”によって読み解いた来訪者の情報に合わせてより良い空間を以て“おもてなし”をするのか。とても、いや、かなり優秀だ。
 彼はテーブルにつくことを薦め、手ずから香り高い紅茶を注いでくれた。匂いも見た目も数値化された幻のはずだが、よくできている。そして手馴れている。
「質問にはお応えしましょう。ここは書籍標本機構(ビブリオテーク)。まあここ1,000年の間に大分アレコレ名称が変わりましたが。シンプルに国際図書館(インターナショナル・ライブラリー)と思ってくだされば。私はここの管理(ホスト)プログラム兼司書(ライブラリアン)兼インタフェースAI。公的型式番号をNo.206(ゼロ・シックス)、特殊固有名称をツキシロ・ユタカと言います。まあ、皆割と好きに呼びますので、あなたもどうぞお好きにお呼びください」
「ゼロ・シックス、ツキシロ、ユタカ……。うん、ユタカがいいな。ユタカにするよ」
「……あなたに呼ばれると妙な感慨を抱きますね。そちらの名前を聞いても?」
「鷹史。織居鷹史って言うんだ」
 答えるとユタカは何とも複雑な表情で笑った。泣いているようにも見えるし、嬉しそうにも見えるし、何かを懐かしんでいるようにも見える。
「来年、息子さんが産まれる?」
「よく知ってるね。それも“観測”なの?」
「いいえ、ただの逆算です」
「まるでその時間に君がいたような口ぶりだ」
「ええ。僕はちょうどあなたの肉体が生きた年代に基礎作成されたAIですから。ほんの15年ほど誤差はありますが」
 やたらと具体的な数字が上がる。彼はもしかしたら俺を知っているのかもしれない。その証拠に最初の一言以来、しつこく質問されることがない。俺の脳内を知覚する性能を持ったAI。それがあの時代に? 信じ難いが否定するだけの材料もない。いや、それより彼は一体どれほどの間、ここに居るのだろう。1,000年、もしくはもっと?
「さて、どれくらいでしょうか。少なくとも地球の地表の大部分が、とても人間の居住できる場所ではなくなって久しい、とだけ」
「……この施設は何のために存在しているんだい?」
「地球における有史以来の記録すべてを保管するために。云わば大規模なデータベースです。私の現在時間では、人類は氷河の一角に保管研究施設を置いて地球表面の洗浄と再生に努めています。私の立ち位置は記録の保全とアドバイザー、ときどきオペレーター的なソレです」
「洗浄と再生、か」
「先に言って置きます。人類は滅びに向かって突き進んでいますが、同じ速度で生き延びようと努力しています。多くは宇宙へ飛び出した中で、一握りの人間が故郷の再生を望んでアレコレ頑張っている――比較的割と健全な努力の仕方じゃないですかね。まあ、そんな感じです」
 もっとも個人的指標ではよく生き延びた方だと思いますよ、と彼は皮肉気に笑った。皮肉気ではあったけれど達成感に溢れたやけに晴れ晴れとした表情だった。つまり、それだけの時間、西暦のAIが褒め称える程度に人類は長く存続してきたらしい。少なくとも彼の生まれた世界では。
「だから目まぐるしくて寂しく感じる余裕もないですよ」
 ユタカは本当に優秀なAIだ。最終的に俺が聞きたかった返答を先に述べてくれた。だからこそ、そのあまりにも人間よりな思考回路に嘘くささを感じる。
「AIにしては異様に、まるきり人間みたいって思ってます?」
 ほら、まただ。彼はあまりにも他人の感情の機微を汲み取るのに長け過ぎている。
「否定しませんし、できません。だって元は人間だったんですから。僕」
「……何だって?」
 久方ぶりに堅い声が漏れた。今、この子はとんでもないことを口走ったのではないか。何でもない事のように、とてもあっけらかんと。



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