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2009/11/03first
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※なんとなく続いた星一の立ち位置的な。星一はとても書きやすい。




 初めて本家の社に来たときのことはよく覚えている。俺はまだ3歳だったけれど、3歳の頃でも覚えているくらいに衝撃的だったからだ。
 本家に住んでいる親戚は……まあ、多すぎるので大分、割愛するが、まずは俺よりひとつ年上の従姉、桐姉さん。霊力も高くて幼いながらにいろいろな祭事ができるすごい巫女。本当は巫女見習いという年齢なのだろうけど、そう言っていいくらいには力が強いらしい。
 桐姉さんのお母さんの咲也さん。お父さんが麒治郎さん。この麒治郎さんがうちの父の弟だ。麒治郎さんと咲也さんは再婚で、その前はやっぱり父の弟で麒治郎さんの兄である鷹史さんと結婚していたらしい。鷹史さんは一人息子を遺して鬼籍に入ってしまった。麒治郎さんは咲也さんとその一人息子である従兄の鳶之介さんを支えるために再婚したらしい。
 大人たちの話をちょいちょい漏れ聞くに、この鷹史さんという人にはいろいろとあるみたいだ。そもそも三男であるはずの麒治郎叔父さんが〝じろう〟だもんな。推測できることはあるけれど、聞かないフリをするのも子どもの役目、と言われたことがあるのでそうしている。
 俺にとって一番、大事……いや、問題……なんだろうな。とりあえず優先事項は、その桐姉さんの双子の魅月の方だ。とはいっても、本当の双子ではなくて、同じ日、同じ場所で産まれたアストロ・ツイン。家系図的には桐姉さんの従姉妹にあたる。咲也さんの血の繋がらない妹の瑠那さんが産んだ子どもだ。
 瑠那さん自身が孤児で、たまたま本家が引き取っただけの養女なので双子に血の繫がりはない。でも本当の双子のように他人にはわからない意思疎通をしているときがある。
 ……まあ、そもそもただでさえ大所帯の本家が〝たまたま〟養子を迎える、というところに引っ掛かりを覚える。から、瑠那さんも何かあるんだろうなぁ、とは思う。こちらも知らないフリをしているけど。
 そして問題の魅月だ。初めて俺が本家で彼女に会ったとき、俺は彼女の顔を見てひどくびっくりした後に、しがみついてびーびー泣き喚いたそうなのだ。いやなんで。自分で思う。なんでかを覚えていないのが大問題だった。
 確かに彼女はちょっと特殊な白子(アルビノ)の容姿をしているけれど、それが子供心に怖いとか異質だとか思ったのなら、わざわざしがみつきにはいかないだろう。じゃあ、なんで。と問われたら、これも首を傾げるしかない。
 ひとしきり泣いて泣いて、泣きつかれてそのまま寝てしまったのだが、そのときにはもう、彼女を見て何を感じて何を思って何故泣いたのか、すこんと忘れていたのだ。かといって、それが喪失感として残るわけでもなし。むしろ不思議なくらいの充足感があったように思う。
 不可思議だったのは俺もなんだが、後から聞いた話によると、魅月の方もこれまた不思議だったらしい。普通、同じくらいのガキにしがみついて泣かれようものなら、もらい泣きでもすると思うのだが、アイツは違った。
 泣いている俺の髪をぐしゃぐしゃしてみたり、頬っぺたをぐにぐに揉んでみたり、好き放題していたらしい。今から思うとアイツらしいな、としか思わないのだけど。絶対、宥めすかそうとか、泣き止めとか思っていたわけじゃない。玩具の方から飛びついてきたから遊んでみただけだろ。アイツ。
 今でも桐姉さんがとても微笑ましそうに可愛かったと回想するので、少し気恥ずかしい。
 そうして魅月の服を掴んだまま目を覚まし、ぼんやり周囲を見渡そうとし。すぐにぴいと悲鳴を上げることになった。目の前に魅月そっくりの、しかし、彼女より数段、眼光鋭い男性の顔があったからだ。
 語るまでもなく、魅月の父親で瑠那さんの旦那さんである村主さんだった。素の顔面がそう見えてしまうだけで、あのときは別に睨まれているわけでも何でもなかったんだろうけど。3歳の子どもが寝起きに見るにはちょっと刺激が強かった、とは言っておく。
 状況がわからなくてややパニックになっていた俺だが、隣で自分もぐうぐう寝ていた魅月の手は離さなかった。
 固まったままの俺を前にして村主さんは「ふぅん」とか、「なるほど」とか、ひとりで何かを納得していた。今でも何に納得していたのかはわからない。しかし、彼は徐に寝ている娘の身体に無造作に手を伸ばすと軽く抱き上げて、ぽい、と俺の方に放ったのだ。
 4歳の女の子を、3歳児の俺の方に。いや、潰れる。普通にそんな受け止めるような力は3歳にはない。結果としてみっともなく、べちゃりと床に這いながら下敷きになる羽目になった。え、何。何が起きたの。何をしたかったの。ってなもんである。
 今度こそパニックに陥っている俺を見て、村主さんはくつくつと、アニメに出てくる悪役のように笑った後に一言だけ言った。
「やる」
 いや、何を。
 混乱する俺を放置して、村主さんは目的を果たしたとばかりに出て行ってしまった。圧縮言語が過ぎる。解読できない。
 なんとなく本家に行くと魅月とワンセットで扱われるようになったのは、その日からだ。普段、魅月は桐姉さんと二人でワンセットなのだが、俺が行くとなんとなく隣に置いてくれる。今年、桐姉さんに高校生の彼氏候補が出来てからは、俺と二人にされることもあった。俺は嬉しいけどさ。いいのか、それで。
 いいのか、とは常に思っているけれど、誰に聞いても「村主さんがいいって言ってるし」と答えられるので、俺の疑問は永久に解けない。あ、でも、魅月と桐姉さんの祖母である葵さんといつも一緒にいる下宿のおじさ……お兄さんの望さんには、すごく複雑な目で見られたことがある。麒治郎叔父さんにも、ちょっと意味ありげな目線を向けられたことがあるな。
 わかるわかる。当人である俺が理解できてないもんな。村主さんも魅月も、瑠那さんでさえ、気にもしていないのでときどき〝常識〟を忘れかけてしまう。
 というか麒治郎叔父さんにはごく軽く訊かれたことがあった。「あのファザコンのお転婆でええんか?」って。なんと答えても冗談で済ませられる雰囲気で訊いてくるのはさすが学校の先生だ。
 でもな、叔父さん。確かにアイツ、表に出してるのはファザコンだけど、同じくらい隠れマザコンだぞ。隠れてるから瑠那さんも気づいてないけど。大人げなく父親と母親を取り合う仲だからな。
 一応、そういうことに対しては、変に取り繕ったり、誤魔化したりしてもロクなことはなさそうなのでそのままを答えた。
「よくわからないけど、アイツがお父さんとお母さんに甘えてるのは、幸せそうだからいいよ」
 考えたらあれから麒治郎叔父さんはやたらと俺に甘い気がするんだよな。なんでかわからないけど。


 まあ、俺の話はこんなところだ。
 そして、桐姉さんに高校生の彼氏候補、と言った。鳶之介兄さんの同級生で克昭さん、という。俺は夏に本家へ出向いた際にちょっと話しただけなので、よく知っているとは言い難い。のだが、逆に言えばその一回で「おや、これは?」と思ったくらいだし、何より魅月が大人しく受け入れているのでそういうことなのだろうと思う。
 悪い虫だったら、魅月のことだ。たぶん、どんな手を使ってでも追い払ってるもんな。まあ、シスコン気味……いや、大分……かなり……とても妹想いの鳶之介兄さんは納得していないみたいだけど。
 その時点でうちの弟にはほぼ目がなくなった。保育園児相手に無暗に現実を突きつけてもなぁ、と思うし、夏の滞在中に気づくだろと楽観視していた。結果として弟は気づかず、「また来てね」と手を振る桐姉さんにぽーっと見惚れるままとなった。ウソだろ、我が弟よ。
「無理もないわよ。保育園児にとって高校生ってほぼ大人じゃん?」
 見送りという名目で新幹線のお土産品コーナーを物色する魅月が真理を呟いた。
「子どもが大人に淡い初恋をするってのもよくあることだろ? いや、桐姉さんと克昭さんはどっちか一方通行ってふうにも見えなかったけど」
「そうだけど。あんた、自分がトシの割に余計なことに気づく質だって自覚した方がいいわよ」
「お前、頭にブーメラン刺さってるぞ」
 なんだろう。褒められてるはずなのに、貶されてるようにも感じる。
「まあ、いいんじゃない。しばらく放っとけば。その方が……青少年には乗り越えなきゃいけない壁がある、って思い知った方が強く生きられるし」
「お前、今、面白そうって言いかけただろ」
 悪びれもなくちろりと舌を出した。まったくコイツは。
 結局、魅月は俺が咲お祖母さまにもらった小遣いで抹茶のコルネッタを購入し、待合室で俺と半分を食べて残りを持って帰っていった。たぶん、アレは桐姉さんのお腹に消えたな。俺がもらっていいのか、何に使えばいいのか、小遣いを持て余していたこともお見通しだったらしい。やれやれ。敵う気がしない。


 まあ、そんなこんなで俺は弟のいつか破れる恋を見守ることになった。
 ……いや、守ろうとはしてないな。はよ気づけとは思ってるから表現的にどうなんだろうな?
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