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何故、こんなに心が冷えているのだろう。
※都内で相次ぐ連続自殺事件を多方面から語るモノ語り




 いたい。
 全身が、麻酔でもかけられたみたいに動かない。
 いたい。
 朦朧とした意識の底で、緩やかに浮上する。
 いたい。
 指先が動かない。身体が悲鳴を上げている。瞼が、とても重い。
 いたい。
 ――私は、どうしたん、だっけ。
 ストーカーに、アパートで待ち伏せされて、先生が助けてくれて、いつもの病院の診察室に行って。
 ――あれ?
 先生は、こんな時間に、あんなところで、何をしていたの?
 何かが、ズレている感触。胸に振って湧いた違和感。信じるものが少なすぎて、盲目になった里菜には認識し切れない何か。
 何だろう。自分はとても馬鹿だけど、それは自分のことのような気がする。自分のことなら、確かめなきゃ。
 こんなにちゃんと出来ていないけれど。それでも自分のことは、自分で何とかしなくちゃ。
 瞼を、開かなきゃ。
「うっ……」
 その重たさに唇から声が出る。自分の声が掠れているのがわかった。まほろばのようにうつろう視界を、少しだけ、開いて。
「ひ……っ!」
 その目に映ったモノに声にならない悲鳴を上げた。
 薄暗い。いや、薄暗いなんてものじゃない。暗闇を、頼りないランプがひとつだけ照らしているくらいの光。そのわずかな光源が照らし出す影。
 身動きひとつ効かない里菜の四肢を取り囲む、少女の容(かたち)をした亡霊だった。
 ひとり、ふたり……はちにん。はちにん? 何かが引っかかる。はちにんの、少女の影がじっとこっちを見ている。ちがう。見えるような目が、彼女たちにはもうない。落ちくぼんだ伽藍洞の暗闇が里菜を見下ろしている。
 幽霊やおばけが白いなんて、誰が言ったんだろう。彼女たちは真っ黒い影だった。真っ黒いのに、その容が里菜にははっきりわかる。咽かえるような嫌な臭い。真夏のプールから漂ってくる、むっとした匂い。
 彼女たちが何を思っているのか里菜にはわからない。その無機質さに、かちかちと奥歯が鳴る。
「ようやく、視えるようになりましたか」
 柔らかい。でも、ちっとも心が落ち着かない、底の知れない声が聞こえた。こんな声は知らない。ちがう。知っているけれど、認めたくないだけだ。声は知っているけど、そんな声色なんて知らない。
「せん、せい……」
 薄っすらとした光に照らされながら微笑むアスマ先生が、笑っていた。彼の手にあるあのお守りが、ちりん、と鳴った。



『ゴカイだって! オレは再犯なんかしてねーよ!! なあ、あんたなら知ってるだろ!? オレと話したあんたならわかるだろ!?』
 電話越しに鼻水と涙に塗れた声で男が、スドウケイタ青年が泣き叫んでいる。
『オレの生活知ってるだろ!? そんな写真どころか、あいつのこと探すような余裕もねぇよ!! 封筒の手紙とかカードだって、全部印刷で、オレ、そんな金なんて持ってねーし! そんな金使うならいいもん食いに行ってる!』
「つまり、相原里菜のストーカーはお前じゃないわけだな?」
『そ、そうだよ! そうだ、相原があそこに住んでたなんてオレは知らなかったんだ!』
「じゃあ、なんでそんな場所にいた?」
『で、電話が、男から電話がかかってきて、ここに来いって、ずっと立ってろって! い、言うこと聞かなきゃ仕事先に2年前のことバラすって!! ウソじゃねぇよ! 本当だよおっ!』
「おじさん、貸してください」
 スピーカーを使うまでもなく、大江のスマホからは泣きじゃくるケイタ青年の声が漏れていた。見かねたのか、何か考えがあってか、不愉快そうに眉を寄せた少年が手を出した。大江はボサボサの髪を掻き上げて、一拍だけ空けて少年にスマホを差し出した。
「スドウさんですか。ああ、僕が誰かはどうでも。男から電話があったとのことですが、非通知ですか? 履歴は?」
『こ、公衆電話だ! 履歴もある!』
「なるほど。それ、消さないでくださいね。大事な証拠になりますので。それを守ってきちんと証言してくださるのなら、今回の一件で証言をしても良いでしょう」
『ほ、本当か!?』
「ええ。正直、あなたに同情も酌量の気持ちも湧きませんが、かといって本件の犯人を野放しにするわけにもいきませんので。ですが、それは後日です。今晩はそちらにお泊りなさい」
『な、なんでだよ!? オレはやってねぇって……』
「そこが今現在、あなたにとって最も安全だからです」
 電話口の向こうでケイタ青年が引きつった声を出した。
「警察署から一歩でも外に出てみなさい。あなたを呼び出した人物に証拠隠滅のためと脳天撃ち抜かれでもしたらこちらが迷惑です」
 かひゅ、と変な呼吸が聞こえた。真面な言葉が聞こえて来ない。向こう側で過呼吸でも起こしているのだろうか。
「理解いただけましたか? それでは」
 少年は何の容赦もなく言い放って通話を切った。何のコメントなく大江に突き返すので、大江も何も咎めず受け取った。
「再犯ストーカーの正体はケイタ青年ではなかった。これは本決まりだな」
「ええ。確かに彼の証言は穴だらけです。配達や引っ越しのアルバイトで住所を知るチャンスはある。写真は本人でなくとも撮影可能。手紙もまた然り。第一にすべてに“その気になれば”という条件がつく」
「逮捕歴のある奴さんが、相手のアパートの前で何時間も待機するリスクに気が付かない、ってのもおかしな話だ。ケイタ青年が相原里菜の新しい家を知らなかったってのは、本当のことだろう」
「となれば。犯行は相原里菜の現住所を特定でき、かつケイタ青年の動向を、誰に違和感を抱かせず調べることが可能な人物に限られる。ストーカー再犯は、元々、再犯ですらなかった。いえ、それどころかストーカーの偽装というのが正しい」
「……結局、お前さんの言うことが正しくなっちまった、ってことか」
 雨を掻き分けるワイパーを睨みながら、少年は吐き捨てる。
「犯行偽装を行ったのは、臨床心理士の遊馬叶一(アスマケイイチ)です」



 ぐらり、ぐらり、と視界が揺れる。いや、揺れているのは里菜の頭の方だろうか、それともぐるぐると踊る8人の少女たちの方だろうか。憎悪、嫉妬、羨望、痛苦、渇望。ぐるぐると渦巻いた彼女たちの思念が、糸になって絡みつく。
 糸。里菜の全身に絡みついて離れないのは、オレンジ色の無数の糸。
 ――ちがう。これ、糸じゃない。
 獣の匂いがする。小学校にあったウサギの飼育小屋と似た匂いがする。でも、それよりずっと強い匂い。
『その糸のことを、僕は知っている。たぶん、君よりも』
 何故か今さら少年の声が鮮やかに脳裏に蘇った。
「なに、これ。せんせい? 一体、何を――」
「焦りましたよ。あなたは他の8人と違う。器として選定した材料だ。手塩にかけて繋いでおくつもりだったのに、最近のあなたはどこからか知らない水と風の匂いを連れてくる」
 別の人と話をしているようだった。それくらい、話が噛み合っていない。いや、先生はもう里菜の言葉を聞いていない。
 ――水と風の匂いって、何?
 何故か、あのベッドで嗅いだ森の匂いを思い出した。
「仕方がないので、こんな強硬策を取る羽目になりました。まあ、オサキはきちんと発現してくれましたし、それでよしとしましょう」
「お、さき……?」
 その言葉に応じて里菜を束縛する無数の糸、いや、獣の毛がわさわさと鳴いた気がした。



 少年は苛立ちながら窓枠を指で叩いている。その少年を宥めるべく、大江はわざと説明を求めた。
「オサキって、あの狐憑きがどうだとかいう」
「そう。元は関東地方の一部の俗説だ。尻尾の先だから尾先、尾が裂けているから尾裂、なんて説がある。外見は諸説あるけど、妖怪の一種だ」
「けど、確かオサキって東京にはいねぇ妖怪だろ?」
 何かで聞きかじった記憶の引き出しを引きずり出して答える。少年は頷いた。
「本来なら東京にはいないはずなんだ。オサキは。川を渡れないからだとか、関東八州の狐の領分を侵せず、江戸に立ち入ることができないからだとか、そんな風に言われてる。そんな土地に存在するオサキは本来異物だ。土と大気の方が受け入れない。自殺者が出始めた時点で、霊感の高い人にとっては東京の大気に毒物が振り撒かれていたようなものだった」
「自殺者がオサキ……狐憑き、なのか?」
「そう。厳密に言えば8人はオサキになるために自殺させられた」
「だから高山の奴はあの頃から」
 倒れた後輩のひどい顔色を思い出し、大江も唇を噛む。最初から無理矢理にでも不調を聞き出してやれば良かった。
「素人目だけどおじさんの霊感は守りに特化している。人間は非常識に直面したとき、無意識化で自身が識っているものでそれらを補完し、自身の世界と脳を守る。おじさんは敵であるものとそうでないものとを直感的に理解できるんだろうね。でも今回は相手が悪い。大気中の黄砂や花粉から身を守れ、というのは限度がある」
「だから俺は悪くないですよ、と励ましているつもりか?」
「そうは言っていない。ただ相性の善し悪しの話さ。おじさんが言っていた臓器機能の低下はそこから来ているんじゃないかな。直接、会ったわけじゃないから、確実なことは言えないけどね」
「……なんで東京に存在しないはずのオサキが8人の少女に憑いていた?」
「憑いていたというより、彼女たちの体内で生成されたんだ。あのオサキは」
 またとんでもない話をしようとしている。ここ数日で、いや、大分前からぶっ飛んだ話には耐性があるつもりだったが、何にしても穏やかじゃない。
「おじさんが調べてくれた通り、8人の少女たちは遊馬叶一氏の診察を受けた経歴がある。そこで彼女たちは貰ってしまったんだ。オサキ生成の呪術の媒介になる件の“お守り”をね」
 雨垂れの向こうで信号が明滅する。その光さえ、今は苛立たしく思えた。
「噂は、半分は本当だった。ただし、実体は恋のおまじないなんかじゃない。オサキを生成するための呪物だ。本物は遊馬叶一が造った8つ、いや、9つか」
「9人目が相原里菜、か」
「そう。最初から故意に呪術師である自分の毛髪を入れていたのか、それとも彼女たちが自分の毛髪を入れるように巧みに誘導したのか。相原里菜の件の手の込みようを考えるに後者か。彼女たちが第三者の毛髪を入れて願掛けしてしまえば、それだけ純度が落ちる」
「純度だ?」
「遊馬叶一の欲するオサキは女性の体内でしか生成されなかったんだろうね。だから、彼女たちの心の隙を知っていて入り込んだ。その恋情の中に他の男の欠片は異物ということなんだろう」
「下種が」
 知らないうちに唾棄していた。ひどく気分が悪い。少しでも少年を気遣っている大人でいなければ、血管が切れていそうな話だった。
「何故、遊馬の望むオサキは女性でなくてはいけなかったのか。問題はオサキの原型となる由来の方でね」
「由来」
「おじさん、初めて会った朝に言った、僕が8人で“自殺者”が終わる理由を覚えている?」
 初めて会った朝。あの雪と梅の朝。確かこの少年は。
「尻尾はそれ以上いらない。8人。8本の尻尾、9人目の相原里菜。――まさか」
「その通り」
 少年が小さく拳を丸めながら前を見据える。
「遊馬の目的は、かの高名な大妖怪。九尾の狐の現界だ」



 小さな蝋燭の明かりを手に、先生はずっと笑っているようだった。一歩、こちらに歩み寄る度に響く革靴の音がとても甲高く聞こえた。
「綺麗でしょう? あなたの先達になった、その子たちは」
 ――そのこ、たち……。
 里菜を見下ろす伽藍洞の目をした8人の少女たち。オレンジ色の獣の毛でゆらゆら繋がれながら漂う少女たち。
 ――オレンジ。
『割れてしまったので、片付けました』
 なんでもないことのように言った、先生の言葉が再生される。あの子も、あの子も、見たことがある。どこで。この、病院で。だから。
 この中の誰かが、きっとあのカップの持ち主だった。
「あなたは、誰よりも綺麗になれますよ」
 それは欲しかった言葉のはずだ。誰かに言って欲しかった言葉のはずだ。夢のような人に、夢だった言葉を、言ってもらっているはずなのに。
 何故、こんなに心が冷えているのだろう。
 ――ああ、私は。
 光源が、蝋燭の炎が、ゆらりと霞む。
「さあ、私が誰よりも美しくしてあげましょう」
 ずっと誰かに救って欲しいと思っていた。誰かに一緒に立ち上がって欲しかった。誰かに幸せになってもいいと言って欲しかった。
 ――ごめんなさい。
 きっと、それさえも間違いだった。
 ――私の幸せは、とっくに腐り落ちているんだと知っていたはずなのに。
 8人の少女たちが、堕ちるように降ってきた。ひどく寒いのに、腹の底が燃えるように熱かった。



「西王母、妲己、玉藻の前。九尾の狐の伝説には、常に女性が登場する。遊馬が希求するオサキに女性が不可欠だったのはその幻想があったからだ」
 また雨が強くなった。
「それでも九尾の狐は元々瑞獣で神様だ。悪い狐であるという定義づけをしたのは人間の物語だ。オサキが毒になっているのは単純に土地との相性の問題。那須野で石になった九尾の狐の欠片を、東京に持ち込んだのは遊馬か遊馬の先祖か。それは僕にはどうでもいいことだけど」
「那須野。アレか。玉藻の前が封じられた殺生石」
「そう」
 日本に玉藻の前として逃れてきた九尾の狐は、鳥羽上皇に仕え、正体がバレた後はかの高名な陰陽師に討伐されて石になった。というのは人間の物語だ。
 本当のところは定かではないが、那須野には九尾の狐の成れの果てであるとされる殺生石が現存する。その後、毒素を吐き出し始めた殺生石は、時の偉い坊さんに砕かれた。今では各地にその片鱗が飛来しただのなんだのと伝えられている。その一つ、関東の一角に落ちた欠片がオサキだという。
「欠片を集めれば本体に近いものが創造できる。いや、遊馬の頭の中では本物と同意義なのかもしれない。ともかくその欠片から遊馬は“お守り”なんていうどこにでもある形で呪物を生成した。正式なまじないの過程を踏んだら、少女たちの恋心を喰って成長し、呪物と少女の魂を結び、取り込んでオサキに生る。その時点でオサキを体内から回収する」
「待て。回収するってなんだ。少女の魂はどうなる?」
「魂ごと引っこ抜くんだ。オサキに生った時点で、その魂はオサキに支配されている。芯である魂を引っこ抜かれた肉体は、単純な思考をかろうじてこなすだけの骸同然になる。術師が困るのはその肉体の始末だ」
 単純な思考。肉体の始末。骸。
「まさか、自殺ってのは」
「彼女たちに死滅願望なんかなかった。高いところに昇れば落ちたくなるし、鋭いものを見れば切りたくなる。そんな衝動に動かされていただけ。そういう風に、催眠か暗示をかけられた」
 いつかのように、少年は語った。けれど、いつかよりも感情を押し殺した声だった。
「お前さんが、8人目は手遅れと言ったのは」
「……回収された、後だったから」
 雨に滑るタイヤがブレーキ音とともに止まった。銀杏並木の向こうに遊馬総合病院のやたらでかくて忌々しい文字が見えていた。



 雨夜の総合病院は不気味に静まり返っていた。不気味にだ。総合病院であるにも関わらず、どこの電気も点いていない。病院という敷地に於いて、そんな不気味なことがあり得るだろうか。
 大江はゴアテックスのフードを目深に被ったが、少年は薄いパーカーのフードも被ろうとしなかった。耳にはいつものヘッドホンをつけているのに、だ。苦言を呈してはみたが「たぶん、濡れていた方がいい」と返された。
 少年はタクシーの運転手に口止め代わりか、五千円札を放り投げていた。運転手の方も会話からヤバい客に捕まったとわかっていたのか、少年と大江を降ろすと大慌てで雨の向こうに走り去った。本能だとしても、それは正しかったのだろうと思う。
 風はないのに先ほどからぱちぱちと、砂粒でも当たっているか、静電気に包まれているか、そんな感触が大江を襲っている。少年の言う黄砂や花粉という例えは、間違っていなかったのだろう。雨の中でも大気で暴れる霊力の破片。大江は口元をマスクで覆い隠した。どれほど効果があるかは知らないが。
 やや緊張した面持ちで、それでも悠々と歩く少年についていく。
 正面にはぽつぽつと車が見えるでかい駐車場。だだっ広い敷地内で、病棟は2つに別れている。その2つもが黄砂のど真ん中に在り、灯りの一点もなく、不気味に静まり返っている。雨の音以外、ここには存在していない。ここには生物の匂いがない。青い銀杏並木も、どこかに潜んでいるはずの虫やねずみの息の声すら聞こえない。
 まるで、何かに怯えて竦んでいるかのように。
 少年は2つの棟を見比べて、迷いなく歩みを進めるかと思いきや立ち止まった。虚空を見つめる少年の髪に雨が跳ねる。一滴、二滴。
「っ! おじさん!」
 振り返った少年が大江の腕を掴んだ。自分の背後に庇うように立つと、ポケットに入れっぱなしだった左手を突き上げる。上空から飛来する光が見えた。
 少年と大江を包むように金色の稲光が迸った。眩しい。形を取った稲妻が、槍のように伸びて飛来した青白い光を迎撃する。青白いその光は明るいのに妙に昏く、とぐろを巻いた炎のように見えた。一瞬のことだった。
 光が消えた後、少年の左手にはあのジッポが煌々と点いていた、強い雨の中でも、煌々と。
「ほう。西洋のルーン魔術とは珍しい」
 ふいの声が間近に聞こえて大江は目を剥いた。雨の中。だだっ広い駐車場の向こう側。棟と棟の合間に傘もささずに立つ影がふたつ。
 それを認めた瞬間に急に獣の匂いが強くなった。
 ひとりは男。白衣姿の眼鏡の優男。だが、曇った眼鏡の向こうで隠しきれない悪意がちらついている。
 ひとりは女。一発でただ事でもただモノでもないとわかる。あれは、相原里菜なのだろうか。地につくほどに伸びた金色に輝く髪。地に届いている長い裾。長い帯。十二単の再現とまではいかないが、絢爛な金糸が編み込まれた衣裳。俯いた顔はうかがえないが、顔色はひどく悪い。高貴な金と赤。眩く飾られた人形のように立ち尽くす少女。
 そして、少女の背後には、雨に濡れることもなく金色に輝く8本の光の尻尾。
 声を発したのは、男だった。
「水と風。何故、一個人が2つの元素を持ち合わせているのかは謎だが、なるほど。相原さんのオサキ化が随分と緩やかだった原因は君か」
 男は少年を見つめつつ、ぺらぺらと何かしゃべっている。対する少年は眉ひとつ動かさずに男を見据えている。
「――どうも、こんばんは。遊馬叶一先生」
 風もないのに銀杏の一角が、がさりと揺れた。



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