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11/08

2009

【apertura 1】 R-15

 海岸線に並ぶボートと石レンガのホテルが横目に流れていく。傾斜の高い段々の山際と海岸線に赤い花がちらほらと咲き、蒼い潮に爽やかなオレンジとレモンの香りが鼻腔をくすぐる。
 岸壁にぶつかる紺碧の潮に目を細めて、カノンは潮風に巻き上げられる長い髪を押さえつけた。
 シーズンのせいか海岸沿いの道路を走る車が多い気がする。全開にした窓から、シエロ・ブリュを走るナポリ行きのジェットが雲を引いていた。

 Pilililililili……っ

 無粋な電子音が耳に響いて、カノンは唇を尖らせながら、無口な運転手の方を見るが、くい、と顎で指図されるだけだった。
 しぶしぶ機械音を耳に押し当てる。
「……はい」
『Ciao,Kanon! 君らのお耳の恋人アルバートだよ。聞こえるー?』
「とりあえず出来るだけ早く死ねばいいと思う」
『うん、聞こえてるな。今、どこら辺だ?』
「ラヴェッロ出た。アマルフィの海岸線走ってる」
『急いでくれよ。あいつら、何するかわからないぞ。ジャポネーゼは肌美人が多いからな』
「連中があんたや兄貴より変態じゃないことを祈ってるわ。じゃあね」
 問答無用で切った。電源も落とそうかと思ったが、
「やめておけ。後々の連絡が面倒だ」
 横手からの声に、唇を尖らせながらハンドル脇の携帯受けに置いた。
「でもさ、間抜けすぎない? いくら同じアジア人だからって、ターゲットを間違えて攫う? 普通。
 しかも何であたしたちがその尻拭いをしなきゃいけないわけ?」
「さあな。アジア商会の娘と一般観光客を間違える道理はわからんが、フェッロのファミリーの評判は最近がた落ちだ。
 ファミリーの規則として売春と賭博は法度のはずだが、まあ、堂々としたものだ。『名誉』の欠片も意味がない。
 一般人の救援は口実だ。本当の意は、大事にしてフェッロのファミリーの社会地位を失わせることだな。それが周辺ファミリー全体の決定だ」
「カタギの人間を利用して、気に入らないヤツ叩こうってだけじゃない。しかも日頃、馬鹿にしてるマリアのファミリーにやらせるってんだから、自分たちは手を下さずに高みの見物っていう魂胆が見え見えなのよ。
 まあ、フェッロ・ファミリーは叩いて置いた方がいいとは思うけど。それで理由にされるカタギの子の方はたまんないじゃない。しかも女の子でしょう?
 まさかどっかの他の奴らが、このためにわざと嘘情報流したとかないでしょうね」
「あるかもしれんな。しかし、起こってしまったものに文句を言っていても始まらん。
 俺たちの仕事は、手違いでフェッロに攫われた日本人を保護することだ。余計なことは考えすぎるな」
「はいはい。……カタギの女の子、ね。また犯罪者呼ばわりか」
 不機嫌な顔のまま、カノンは溜め息を吐いてシートに寄りかかった。身を沈めて足を投げ出して、ダッシュボードの上に踵をあげたところで横からぺしり、とはたかれた。
 むくれながら足は下ろして、急にぱっと身を起こす。
「ねえ、気分転換にBGMかけていい?」
「構わんがシートベルトは締めろ」


『Pursuing My True Self』

we are living our lives
abound with so much information

come on, let got of the remote
don't you know you're letting all the junk flood in?
I try to stop the flow double-clicking on the go,
but it's no use hey, I'm being cosumed
Loading loading loading quickly reaching maximum capacity
Warning warning warning Gonna short circuit my identity

Get up on your feet tear down the walls
Catch a glimpse of the hollow world
Snopping round town will get you nowhere
you're locked up in your mind
we're all trapped in a maze of relationships
Life goes on with or without you
I swim the sea of the unconscious
I search of your heart pursuing my true self ...


 ――痛……。
 意識が浮上して最初に感じた感覚がそれだった。冷たくて固い床が頬と体の下にあって、動かそうとした手足は何かに拘束されたように上手く動かない。ぴりぴりとした痛みが手首と足首にあって、少し動かすと悶絶するほどの麻痺が襲ってくる。
 声を出そうとして、声にならなかった。視界を閉じたまま口を開こうとして、出来ないことに気づく。
 ――あれ……私、どうしたんだっけ……。
 まだ朦朧とする意識を浮上させる。そうだ、そういえば……
「よう、お目覚めか、お嬢ちゃん」
 にわか知識のイタリア語だったが、たぶん、そんなことを言われたんだと思う。単語と声の柄の悪さを繋ぎ合わせれば。
 手足から血が薄れたような気がした。そうだ、確か……
 ――ナポリの空港出て……アマルフィの海岸に出ようとして……
 少し細い道路を横切ったときだ。人通りも少なかった。背後に妙な視線を感じて、怜奈に別の道に行かせて……
 大きな通りに出ようとしたところで、腕を引かれて、口と鼻に何かを押し付けられて……
「これがアジアの豪商のお嬢様ねえ……。普通のちびに見えるが」
 ――は?
 声が出せないのは知っていたが、出しそうになって「もが」と変な呻きが漏れた。
「金持ちの娘だからって美人てわけでもないだろ。前に攫ったカンパニーのお嬢なんざ、チョコレートの食べすぎでぶくぶくだったぜ」
「それに比べりゃ当たりだな。アジア人なら場所を選べば高く売れそうだ」
 ――……。
 血の気が引いてきた。ぶつ切れの単語しか聞き取れないが、何の会話か見当はつく。胃から気持ちの悪いものがこみ上げてくる。
 ――豪商の娘、って……何か勘違いしてない、こいつら……っ。
 シチリアのコーサ・ノストラの商売に誘拐があるのは知っていたが、もっぱら狙いは金持ちか有名人と聞いている。断っておくが、自分は間違っても豪商だとか、有名人の娘なんかじゃない。いや、義姉は義母は近所で多少有名かもしれないが。そんなものがイタリアの辺境まで轟いていたら、何かの冗談にしかならない。
 ――冗談じゃ……
 背筋と手足に恐怖と寒気が走る。目を開けて見るが、薄暗い中に何も見えない。ごわごわした布が目の周りを覆って、ちくちくするロープが手足を縛り上げているのだ。
 怜奈を逃がして置いてよかった、と思う反面、凍りついた体が震え始める。警察はあまり当てにならないと聞く。
「さてと、お嬢ちゃん。カタギの世界に別れを告げてくれ。金持ったいい家に生まれて、これまで幸せだった代償とでも思ってくれや」
 比較的、生活が支えられていたことは認めよう。だが、金持ちの家に生まれた記憶はこれといってない。
「残念だったな、家に帰れると思ってるなら、すぐ甘い考えは捨てるこった。今からあんたは物好きの家に買われていくんだ。
 安心しな、アラブ辺りでアジア人は高く売れるからな。一昔前の奴隷よりはいい暮らしだぜ」
「……」
 見えない布の向こう側で、皮膚の硬い指が乱暴に喉元を掴んできた。全身に怖気が立って、悲鳴すら出ない。縛り上げられた両手が、がつん、と後ろの硬い柱か何かに押さえつけられる。痛い。痣くらいになっていそうだ。
「……っう」
「ひゅう。お嬢さんにしてはなかなかの度胸だな。普通は攫われた、ってわかった時点で泣き喚くもんだが。
 それとも怖すぎて悲鳴も出ないのか?」
「っ!」
 びりっ、と刃物が布を裂く音がした。
 ――スカート……
 冷たい空気に太腿が触れた。頭の中が真っ白になる。怒りなのか、悔しさなのか、恐怖なのか。ぐしゃぐしゃな感情が一纏めになって襲ってくる。気持ちの悪い、皮の厚い指が裂いた布の間から忍び込んでくる。喉の奥が震えて何も出てこない。何も考えることが出来ない。
「おい、やりすぎるなよ」
「今度の客は処女嫌いだろ。安心しろよ、一回慣らしてやるだけ……」

 がこぉん!

 ――!
 建物全体が揺れた。
「な……っ!?」
「何だっ!?」
 暗がりの向こうで、何人かの男たちのどよめきが聞こえる。どたどたと騒がしい足音が聞こえて、ばたんっ、と扉が開く音がする。
「ぼ、ボスっ!」
「何だ、騒がしい」
「それが、マリーアのファミリーの奴らが……っ」


 だだだだだだッ!

 爆音にも似た音が廊下に響き渡る。
「どいたどいたどいたぁっ!!」
 銃口が火を噴く度に、石廊下の壁と床に無数の穴が穿たれる。左右にあるドアが開かれて、相手が飛び出すより先に、カノンはドアノブを打ち抜いて鍵を壊していく。開いたドアには、銃口を向けられるよりも早く手元の銃を打ち落とした。
『カノン! 弾を切らすなよ!? 今回、相方は待機なんだ。弾幕張れなくなったら終わりだ、お前の兄貴が泣くぞ!』
「そりゃ一回見てみたいわね! で、ターゲットはどこ!?」
『ったく……。ターゲットは奥のリビングだ。そのまま突っ切れ!』
「了解!」
 目の前のドアが倒れた。開いた部屋から、数人の男が雪崩込んでくる。カノンは反射的にその場に伏せた。
「ぎゃあっ!」
 背後からひしゃげた悲鳴が響く。目の前の男たちの銃弾が、背後に迫っていた別の部隊の連中を貫いたのだ。カノンは伏せたまま銃口を上げて、そのまま連射する。
「ぐぁっ!」
「がっ!」
 男たちが倒れたのを確認して、カノンは起き上がる。一気に駆け抜けて廊下奥のドアを蹴り倒す。

 どがががっ!

「っと、っと……!」
 瞬時に壁に逃れたカノンのすぐ脇を、銃弾が通過して対面の壁に穴を空ける。
「聞け、マリーアの下! 入れば人質の頭に風穴が、」
「誰が聞くかぁ、そんなもの!」
 迷いなく、懐に忍ばせた催涙弾を放り込んで、マスクをかける。
「なっ、くそっ! マスクを……っ!」
「いや、誰も準備が……っ!」
 もがく音と声が聞こえる。弾丸は飛んで来ない。カノンは一足飛びにテーブルを飛び越えて、部屋の最も奥の柱を目指した。
「この……っ!」
「!」
 声に慌てて胴をひねる。闇雲に放たれた弾丸が、天井を貫いた。片手を翻し、足に括ったベレッタを抜いた。

 どんっ!

「っ!」
 男の手からワルサーが滑り落ちる。そのまま足元を打ち抜いてやると、脛を抑えて悶絶した。
「よっと」
 柱に手をついて、かがみこんで、眉間に皺が寄った。
「ほんとにカタギの女の子じゃない……」
 栗色の髪を硬い石の床に広げて蹲る少女を見つけた。カノンとさほど歳が変わるようには見えない。両手両足のロープと口のガムテープが痛々しいが、目隠しだけは少し救いだ。見なくていいものを見る必要はない。
「ちょっとごめんね」
 気絶している少女の体を掬い上げて、アサルトライフルの尻で窓を割る。
「ま、待て、貴様……!」
「待て、って言われて誰が待つもんですか。べーっ」
 倒れたテーブルの下から無骨な顔の男が、ひしゃげた表情で銃口を向ける。だが、火を噴くよりも先にカノンはベランダへと飛び出していた。眼下を見ると、庭木をなぎ倒して、レンのオープンカーが下まで突っ込んでくる。カノンは躊躇いなく、担いだ少女を庇いながらベランダの枠を蹴った。
「痛ぁーっ! だからクッションはちゃんと用意して、って」
「やかましい。行くぞ」
「きゃあっ!」
 少女一人を庇いながらシートに突っ込んだカノンに構わず、レンは遠慮なくアクセルを踏んだ。


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わあ、えろいー
いろいろ楽しい。特にアルが……。
不必要にえろい気もするが……読者サービス?
単に書き手がどS?

karicobo URL 2009/11/09(Mon)00:23:33 編集
無駄にエロイのは仕様です
私がいろいろ遠慮なく書いてるせいかと…(オイ)
イタリア編、大体、こんなテンションです。
香月 2009/11/09(Mon)00:28:00 編集
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