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2009

bambola fortunata 1
 

「赤の28!」
 大げさなほど張り上げられたディーラーの声に、周りがこれまた大げさなほど歓喜と怒号と落胆に包まれる。偉人の印刷された札と、夥しい数の金貨がざらざらと音を立ててやり取りされる。大当たりした奴は札束を手に神に祈り、散財した奴は地面や椅子にあるわけのない温もりを求める。
 何ともわかりやすい。ここには歓喜と絶望以外の感情はないらしい。
 その光景をどこか冷めた目で眺めながら、それでも札一枚を放り投げて舌打ちをする。
「よぅ、アルバート。お前も賭け損かい」
 振り返ると馴染みの遊び人が情けない面で立っていた。両手を挙げて降参のポーズを取っているところを見ると、彼も散財した派らしい。
「あれはねぇよな。さっきから赤ばっかりじゃねぇか。あのディーラー、何か仕込んでんじゃないの?」
「さぁ? 何にしてもフリック。財布の中身、全部賭ける癖があるお前も悪い」
「あたた、それ言われるとなぁ」
 フリックは大して懲りていなさそうな、へらっとした笑みを浮かべた。金にも女にも手癖の悪い男だが、こういうところは憎めない。得な男だ。
「お前もいい歳だろ? そろそろ大人になれよ」
「万年、家の脛かじってるお前に言われたかねぇよ。やっこさん、昨晩も大当たり引いたらしいじゃねぇか。金は金持ちのところに集まっちまうもんなんかねぇ」
「知らないさ。叔父君とは3日に1回会話すればいい方なんだ」
「冷めてるね。駄目だぜ、適当に媚び売って利口に生きねぇと。ほら、また今晩もお出ましだ」
 カジノの成金趣味な玄関で声が上がった。ウェイターとディーラーが頭を下げるのは、上客の証である。
 ――そりゃあ、カジノオーナーだ。頭も下げるさ。
 皮肉のような言葉が脳裏を過る。遠目に見覚えのある男の顔が飛び込んできて、アルバートは思わずわざと視線を外した。
 精悍な顔に顎鬚を蓄えた男。太い体はただのぜい肉ではなさそうで、他人を睥睨するような目がじろりと人の群がるカジノを見渡した。傍らのウェイターが、ぶるりと身震いをしたように見えたのは、きっと幻覚ではないだろう。
 強面のガードマンとスナイパーを、臆病なほど従えて、男は阿鼻叫喚のカジノの中をのうのうと歩く。
「相変わらず堂々としてやがる。相変わらずのビッグ・ゲスト扱いだよ。いいもんだねぇ」
「……みたいだな」
 生返事で頷いて、またちらりと堂々とした叔父の顔を見る。
 ――?
 自分の記憶にはない、少なくとも自分の知る叔父の人格とは似つかわしくないものを見た。ガードマンよりも、執事よりも傍を、小さな影が足音も立てずに歩いている。
「子供……?」
 歳は10を出てそこそこ、といったところだろう。遠目にシャンデリアの光が、色の無い白の髪に反射して光って見える。一瞬、あげた面に目立つのは鮮やかなまでの血の色をした両の瞳。綺麗過ぎるほどの容姿をした少年だ。もう少し年齢が下だったら、性別の判別も難しかっただろう。
 叔父は不意に腰元までしかない彼の頭を撫でた。アルが子供の頃だってそんな仕草の一つもなかったのに。
 しかし、少年は無表情のままでカジノの赤い絨毯を淡々と進んでいく。
「何だ、あの子供……」
「は? おいおい、知らないのか? 甥のお前が?」
「見たこともないよ」
「お前、実家のことに目向けなさすぎだよ。カジノうろついてる輩なら、皆知ってるぜ」
 フリックが呆れた目で見てくる。
「ファウスト・カルカッシ。没落寸前だったカルカッシの家を、ほんの数年でカジノオーナーにまでのし上がった強運と商才の持ち主。たった2年で商売を確立して、1年でカジノ経営者にまでなっちまったとんでもない男。
 ああやって自分のカジノに顔出すが、ときどきああやってあのガキを連れて来るのよ。その日は必ず馬鹿ツキするって話だ」
「……何なんだ、あの子供?」
「さあ? お前が知らないのに他の奴が知るかよ。親戚の子供か何か、って話だけど、本当にそんなもんかねぇ」
 フリックが含んだ笑い方をする。アルが眉間に皺を寄せると、彼は肩を竦めてファウストの傍らに腰かける少年に目をやった。軽い溜め息が漏れる。
「ただの親戚の子供に見えるか、見えないか、つー話だよ。何だかわからんが、あの子供はジイさんのツキのシンボルらしくてな。ついたあだ名が、『幸運人形』[バンボーラ・フォルトナータ]、と来たもんだ。
 キレーな顔して、ディーラーと相対する賭け人には恐怖のガキだよ」
「そんな、そうそう毎回毎回大当たりなんてするわけがないだろう?」
「まあ、見てろよ」
 フリックがそう言った直後だった。
 ファウストがついたルーレット席の周りから歓声が上がった。アルが視線を戻すと、ジャラジャラと金に光るコインがデイーラーによってファウストの方へ寄せられるところだった。周囲から妬みや恨みがましい声よりも、呆けた感嘆と意味のない高い声が上がっている
 気の無いようにファウストは薄く笑うだけで、その隣の少年はというと眉一つ動かさずに、冷めた目で倍になったコインの山を眺めていた。
「……」
「な?」
 何故か勝ち誇ったような顔でフリックが言う。忌々しげに眉を潜めるが、言葉を失ったのも事実だった。
 ――単なる偶然か? いや、でも一度きりでそんな噂なんか流れないよな……。
 叔父とは確かに疎遠だった。疎遠しているのは両方ともだ。会話すら交わすことは少ない。だが、本家に顔を出さなければいけない機会も少ないわけではなかった。
 ――あんな子供、今までいたか……? 俺が知らないだけだったのか?
「……何だ、アルバート。お前も来ていたのか」
「……」
 ――しまった。
 いつのまにかルーレットの席を立っていた叔父が、こちらに気づいて声をかけてきた。自然と顔が引きつった笑いに釣りあがる。
「お久しぶりですね、叔父君」
「長らく顔も見せんで、相変わらずの放蕩か。いい加減、兄……お前の父たちが泣くぞ」
 脳裏を複数の言葉が過ぎる。そのどれもが棘を帯びていることを知っていたアルは、わざと喉元に力を込めて飲み込んだ。小さく首を振って、興味を叔父の腰元に移す。
「……」
「ああ、お前が会うのは初めてだったな」
 表情のないガラスの目が、無感情にアルを見上げた。わずかに少年の眉間に皺が寄る。
「私のフォルトナータだ。可愛いものだろう」
 ファウストの皺が寄りつつある手が、黙ったままでいる少年の白髪の頭を撫でた。少年はそれでも嬉しそうな顔一つしない。
「……そうですね」
 当たり障りのない答えを吐く。どうせ向こうも受け応えに期待などしていないだろう。それよりも、
 ――……。
 もう一度、ちらりと少年を見る。目も合わせようとせずに、ただそこに立っているだけ。なるほど、人形と言われるのにも頷ける。
 ――まだこんな子供じゃないか。
 少なくともカジノなんかに出入りさせるような歳じゃない。
「叔父君、彼はどうして家に?」
「私の死んだ妻の遠縁の子供でな。2年前、親を亡くしたそうで、引き取った。篭りがちな子だからな。家の者でも知らん奴はいる」
「……そうか。大変だったな」
 話しかけても、少年は泰然と黙ったままだ。まるでこちらが見えていないかのように、人形のごとく黙ったまま。
 どこか人間離れした白子[アルビノ]の白い容姿が、余計に無機質さを際立たせて、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。
「それではな。アルバート、あまり羽目を外して私の手を煩わせないように頼むぞ」
 ファウストは少年を促してあっさりと別の棟へ消えていった。少年は従順にその後を追う。
「まったく羨ましいぜ。『幸運人形』[バンボーラ・フォルトナータ]の強運か。こっちにも分けてもらいたいな」
「……寄せよ」
 フリックの口にした一言に、何故だかきりきりとした胸の痛みを覚えて、アルはその一言を遮った。


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