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2009/11/03first
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※豊が8歳。
※トンちゃんと接点を持つより本当に前の豊とシズクと骨董品店の魑魅魍魎。
※ヒネくれた小学生の住吉神社と自分語り。
※ぽんやりしてるように見えて不意に暗め。







 ボクの家はなかなかヘンな街の一角に店を構えている。
 店と言ったって、祖父、もといクソジジィの道楽で出来ているような店なので、看板こそ古いけど先祖代々どーたらこーたらという話は聞かない。聞いたことはあるかもしれないけれど、クソジジィの話なんてろくすっぽ聞いていないのでやっぱり聞いてない、で正しいんだろう。
 月城骨董品店。とある参道の端っこに位置するそこがボクの家だ。
 住んでいるのはボク――月城豊(つきしろ ゆたか)という名前のクソガキと件のクソジジィの人間二人。あとはどこから掻き集めてきたのか、古今東西何でもござれの曰く憑きに宿った神霊、妖怪、妖精、鬼、獣人、エトセトラの魑魅魍魎。意思疎通ができる子もいればできない子もいる。生まれたときからこんな環境であったから、ボクは自分がヘンな感覚の持ち主なのだと気が付くのに大分、時間がかかった。おかげさまでボクはコミュ障でもないのに人間のトモダチが少ない。
 そんな“ヘンな子”であるボクではあるけれど、それにも増してここはヘンな街だと思っている。
 参道というからには、その先には寺社がある。この街の場合は神社の方で、住吉神社、というほどほど大きな神社が建っていた。魑魅魍魎の筆頭であるシズク曰く、泉のある都の山里に境として弁天さまが祀られたのだろう、ということらしい。
 「それだけやないようやけどなぁ」シズクはよくそう言っていた。神霊であるシズクがどんな意味合いでそんなことを言っていたのか、子供であるボクにはきっと半分も理解できていなかった。できていなかったけど、その神社がヘンだな、ということは子供ながらに思っていた。
 ちょっと語弊があるかもしれない。正しくは神社を取り巻く街の方がヘンなのだ。
 せっかく上手いこと学校を三時間目で早退してきたというのに、参道のど真ん中に位置する和菓子屋のジジィ様と呉服屋のジジィ様の口論に巻き込まれてつくづく思う。
「なぁ、月城の小倅。うちの団子、美味いやろ? うちは室町から看板掲げとったさかい、桜さんの御用達なんやで」
「何言うとる。うちの反物は天皇家に納められた品じゃあ。次の茶会に桜さんに着てもらわんと。のう、月城の坊主」
 和菓子屋の軒先にちょこんと座ったボクを挟んで、きゃんきゃん言っている。耳にタコなのでボクは適当に聞き流す。ボクに同意を求めているようで、したいのは自慢だからこれでいいのだ。っていうか、そんなに自慢話がしたいのならボクではなく、電信柱でも挟んでやったらいいのに。
 桜さん、というのは住吉神社のエラい人らしい。らしい、というのはその桜さんはボクの目線だと、うちの店に顔を出し、うちのクソジジィに喝を入れつつ、房飾りや結紐を買っていく肝っ玉な人。という印象だからだ。すごい神社のエラい人、というよりはヘンな子であるボクを可愛がってくれる大人の一人。
 きっぱりはっきり、さばさばした人なので、残念ながら和菓子屋と呉服屋のジジィの恋は実らないだろうな、と勝手に思っている。
 ……まあ、叶わないことが前提の恋慕なんだろうけど。
「月ちゃん」
 肯定も否定もせずに足をぶらぶらさせていたら、和菓子屋のおばさんに呼ばれた。差し出された大きめの紙袋を受け取って、お金を払う。
「これはおまけや。食べてき」
「うん。ありがと、おねーちゃん」
「まっ。相変わらず上手やねぇ。しずくさんによろしゅうなぁ」
 まだ言い争っているジジィ様方のど真ん中をすり抜ける。ちょっと舌を出してみたけれど、どうせ老眼な二人は気が付かない。
 この商店街はヘンだ。
 老舗のジジィ様二人は神社の御巫さんを取り合ってライバルだし、幼馴染がいる肉屋のおじさんはその娘さんに見惚れておばさんに尻を叩かれているし、うちの裏手の八百屋のおっさんはお孫さんを女優かアイドルのように見てる。見てるけど、実際、もしもあの人たちに迫られたりしたら、あのジジィ様方はどうするのかな、と思う。


 住吉神社の別名は人喰い神社という。他にも男殺し弁天とか、神隠しの社とか。というのも女流の御巫さんの家系で、お婿に行った男の人は揃って早死にすると言われているらしい。
 だから女優やアイドル、ジジィ様方に合わせるならお姫様だろうか。そんな扱いなのだろうな。握手会とかライブには足繁く通うけど、結婚相手や恋人には考えない。色ボケしているジジィ様方も、かわいい孫には日が暮れたら神社には行くな、と言い聞かす。ジジィ様方より少し若いおじさん、おばさん連中は、もう少し直接的であそこは呪われているから神社の人間には用心しろ、とか言い出す。
 それでも参道である商店街はまだいい方だ。信仰がジジババ様方によって根付いている以上、彼らの中には社とそこの人間を大切にしなければという使命感がある。一周回ってお節介と化している人もいるけど。
 商店街から一歩でも外に出ると、そんな信仰心は一気に薄まる。そもそも商店街の外は新興住宅も多い。氏神様やら産土様やら、知らない。何それ?な連中がいっぱいいる。てめーの住んでる家の地鎮祭はどこがやったか知ってるか?と聞いてみたい人間で溢れている。
 さて、そんな商店街や住宅地の子供が一堂に会する小学校はどうなっているか。大体が悪意のない悪口で満ちている。
 ボクはこの悪意のない悪口というのがニガテである。キライと言ってもいい。
 悪意のない悪口とは何だって? そんなに特別なものでもない。「あそこの神社、人が死ぬんやて」「それホントなん?」「こわー、近寄らんとこ」。コンパクトに纏めるとこんな会話。
 幼馴染の弘ちゃんは、そういうのを聞くと、くそ真面目に怒る。あそこの息子(ボクたちより一学年下にいるらしい)はイイヤツなんだぞ、ほんなもん迷信やろが、勝手言うな、って怒る。残念だけど効果はない。当たり前だ。彼ら彼女らは本気で神社を怖がっているわけじゃない。そうであったなら、夏場に面白半分で肝試しを企画したり、きゃあきゃあ楽しそうに怪談話したりしない。
 連中が欲しいのは「こわいよねー」という一体感と安心感であって、本当のところはどうなのかなんて割とどうでもいいのだ。マラソン大会で一緒に走ろうねとか、今日のテスト全然勉強して来なかったよなとか、あんな感じに似てる。そんな口約束に悪意なんて誰も感じない。悪意がないから悪口を言っているとも思わないし、どれだけ弘ちゃんが怒ったって聞かないし、聞こうともしない。だから質が悪い。
 実際の真実なんて、連中も弘ちゃんも十分の一も理解していない。でも、同じ理解していないなら弘ちゃんの方がまだ幾分か素敵だとボクは思う。無責任だとも思うけど。
 弘ちゃんはたまに連中に対して怒らないボクにも怒る。やつら、お前のことも悪く言っとるぞ、腹立たんのか、って。うん、ごめん、ムリ。弘ちゃんとかシズクとかならともかく、キライな連中にキライなことを言われても腹なんか立たない。言い返すなら、あ、そう。ボクも君らなんかキライだよ。で終わる。そこから喧嘩とかに発展して先生に「仲直りしなさい」なんて言われた日には吐く自信がある。元々、直るような仲なんてないのに。
 こういう性格だからボクは学校がキライで人間のトモダチも少ないんだろうな。訂正。ボクは結構、立派にコミュ障かもしれない。
 まあ、そんな感じなもんだから、ボクはこの街をヘンだと思っている。敬うなら敬うで、嫌うなら嫌うで、まだ解る。でも常にどっち付かずのこの街は何だかヘンだ。
「人間の信仰じゃからの。表裏一体があるのは仕方なかろうて」
「ひょーりいったい?」
「恵みがあれば有難い。敬わなければ恵みはない。不敬が過ぎれば祟られる。誰とて祟りは怖い」
 もっと小さかったボクにそう説いたのは、サキミタマのおじじだった。サキミのおじじはボクが生まれるより、それこそうちのクソジジィが子供だった頃からあの家の土間にぶら下がってこの街を見続けていたらしい。
 この街は人が住み始めたときから水やら作物やらの恩恵を授かってきた。人間はそれを当たり前に受け取り過ぎる。不敬が過ぎればカミサマは怒る。だから敬う。だから怖がる。
 詰まるところは人間も神様も持ちつ持たれつ。親しくなっても礼儀を忘れれば怒る。
 弘ちゃんは神社に関する噂を迷信だろ、と切り捨てるけど、生憎ボクはそこまで正義漢にはなれない。何故ならサキミのおじじ曰く、神社に婿に入った男の人が早々にこの世の人でなくなったのは本当のことらしいから。死んだ、じゃなくてこの世の人でなくなった、と言うのが少し気になるけど。ボクが生まれる前に一人。ボクが生まれてからも一人。
「カミサマは怒ったら、人を食べるの?」
「ここの神様はわからんなぁ。ほやけど、私は食うたことあらへんよ。私の口には合わへんかて」
 元・泉の神様だったシズクは朗らかにちょっとグロいことを言う。シズクはその昔(どれくらい昔かは知らない)、泉に棲む神霊だった。泉の周辺に勝手に移り住んだ人間に勝手に祀られて、ひどい干ばつにあって勝手に雨乞いに生贄をほいほい放り込まれた。それで神様をやめた。シズクの場合は人間の方のひとり相撲だったわけだ。
「ほやけど、ほんまに生贄やったんかなぁ」
「どうして?」
「お婿さんが向こうに往ってしもうた日なぁ、私も覚えとるよ。すごく天気が悪かったんよ」
 シズクの言う“天気が悪い”は、洒落にならない日だ。ちょっと雨が降ったり、ちょっと雪が積もったりでは、シズクの“天気が悪い”には入らない。大嵐で電車が止まるとか、雷が落ちて林が焦げるとか、テレビ報道並の自然災害をシズクは“天気が悪い”と言う。
「それと男の人がいなくなる話と関係あるの?」
「うーん。贄は贄かもしらんねぇ。やけどほら、生贄言うと社の人が捧げてはるように聞こえん?」
「ああ、そうかも」
 人喰い。男殺し。どちらもまるで社の人たちが、男の人を捕まえて捧げているように聞こえる。怪談話として広まる分には、その方がより怖く聞こえるのからかもしれない。
「私はあのお天気に持って行かれたんやと思ったわ」
「持って行かれた?」
「生贄というより要(かなめ)じゃな」
 ちょっとズレた会話をするシズクの言葉をサキミのおじじが補足してくれる。曰くは生贄に捧げるというより、その“悪いお天気”から何かを守る犠牲になったのではないか、ということだった。
「何かって何?」
「坊にはまだ早う話じゃ。そうじゃな。大きなものじゃ。大事なものじゃ」
 ボクはふぅん、と頷いた。サキミのおじじがそう言うのだから、たぶん、そのときのボクが聞いても理解できないことだったのだろう。それか、知らなくていいことか知らない方がいいことかのどっちか。
「ゆうちゃんは、怖い思う?」
「うーん……」
 膝の上に登ってきたすねこすりのスーちゃんの背中を撫でながら、古びた天井の木目を数える。
「よくわかんない。けど……」
「けど?」
「ボクが消えちゃったら、弘ちゃんはすっごく怒るんだろうな。じっちゃまは、すごく泣く」
 もしもボクが消えたらきっと弘ちゃんはめちゃくちゃ怒るだろう。それは怖いから嫌だなぁ。クソジジィはお祖母ちゃんの位牌がある仏壇に縋り付いておろおろ泣く。あ、想像したらすごくウザい。
「あ、でも」
「でも?」
「……ううん。何でもない」
 弘ちゃんやクソジジィが消えてしまうよりかは、いいかな。かろうじてその一言は呑み込んだ。
 偉そうなことを言っても、ボクだって弘ちゃんたちと同じ、せいぜい十分の一を理解しているかどうかくらいなんだろう。理解してることと言ったら、それくらいのことだけ。
「なあ、ゆうちゃん。神社の息子さんと友達になってみるんはどうやろ?」
「ともだち?」
「それはムリじゃねーかな、シズクよぉ」
 シズクの思いつき(人間のトモダチが少ないボクを心配していたのかもしれない)に、声を上げたのは猫小人の克己(コッキ)だった。塩饅頭に顔を埋めていたせいで、頬っぺたにべっとり餡子がついてる。後で洗濯機に放り込もう。
「あのトントン? とか何とかいうヤツ」
「何、そのニッカボッカ履いて白い犬連れた少年ジャーナリストみたいな名前」
「あの神社の小僧だよ。ずっと前にここの前通ったから、来い来いってしてみたらびくっ、てして逃げてった」
「おいらもおいらも! 目ぇ合ったことあるけど、速攻で逃げてった!」
 自分の家であるガレのランプを磨いていた妖精のリオも加勢する。2人とも逃げられたことが不満なようで、桃色の頬っぺたがハムスターみたいに膨れている。
 そのトントン?という子にはどれくらい視えてるのかな。どっちにしても、克己やリオとお話はしてくれないらしい。
 そっか。そういえばボクは弘ちゃんやよっしー(ヨシミだからよっしー。本人に言うとすごく怖い顔をするけど、一度決めちゃったからやめない)とよくバスケをする。二人は神社の子ともバスケをしているそうだけど、ボクとその子がかち合ったことはない。
 そっか。ボク、嫌われてるのか。
 神社の陰口の多さに隠れているけど、実はこの店だってなかなかに不気味がられているのをボクは知っている。両親はずっと外国暮らしで、クソジジィは滅多に帰って来ない。ご近所にはシズクが遠縁の親戚で面倒を見てもらっている、と説明しているけど、おばさん方の井戸端会議の材料には十分な奇妙さだ。
 まだボクが幼稚園の年少さんだった頃。お節介なおばさん方は「さみしくないの?」とボクに尋ねた。自分がヘンな子であることを自覚していなかったボクは、真っ正直に答えてしまった。「どうして?」って。だって、ボクには生まれたときからシズクもサキミのおじじも克己もリオも、みんないたからどうしたってウソじゃない。
 でも、そのときからボクは“ヘンな子”で、“カワイソウな子”になった。
「じゃあ、しょうがないよね。ボクだってボクのことキライだもん」
 自分がキライなものをスキになって、なんて言えない。オカシイ。それくらいはボクにだって、
「あかんよ、ゆうちゃん」
「シズク?」
「そんなん言うの、ようない。ゆうちゃん、ようないよ」
 そう言ってシズクはぎゅ、とボクのことを抱き締めた。何だかとても哀しそうな顔をしている。ああ、まただと思った。シズクは時々、よくわからないくらい哀しそうな顔で「よくない」と言う。
「あかんよ、ゆうちゃん。ゆうちゃんに、ようない。ようないんよ」
 「自分のこと、キライなんて言わんとって」とシズクは言った。どうしてシズクがそんなことを言うんだろう。わからなかったけど、シズクの哀しい顔は見たくなかったから「もう言わない」って言った。

 そのときの僕は、わかっていなかった。何も、解っていなかった。何も。
 理解したときには、もういろいろと、遅かったのだけど。


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