2009/11/03first
04/18
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12/13
2009
ほとんど衝動で書いた8 years ago外伝。帰ってきた瑠那ちゃんとノンちゃんの会話。
「へい、出来たよ」
「ありがとう」
丁寧に包まれた紫色の包みを受け取って、望はにこやかに礼を返した。みたらしの甘く、香ばしい匂いと、餡子の甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。
「何だかいつもより多いねぇ」
望の両手にぶら下がるお土産の量に、団子屋の主人が呆れたような口調で言う。
「長らく日本にいなかった子が、ようやく帰って来たんで……」
「ああ、瑠那ちゃんだろ? 見つかって良かったねぇ。うちのなんか死んじまったんじゃないか、なんて縁起でもねぇこと言いやがってよぉ」
目尻を下げる主人に、望は曖昧な返答と曖昧な笑顔で答えた。彼女がいなくなったとき、根も葉もない噂が飛び交ったのは知っている。やれ、男と駆け落ちしてどこか遠くに行ってしまっただの、やれ、外の娘が神社に触れたものだから神隠しに合っただの。
女子高生の失踪だ。適当な言い訳で取り繕ってみても、好き勝手な噂が流れるのは止められなかった。同情の奥に隠れた噂に、当時の葵も咲也も心痛めていたことを望は知っている。
「けど、見つかったはいいが妊娠してる、ってのは本当かい?」
「……ええ、まあ……らしいですね」
主人は狭い店内で、声を潜めながら話しかけてきた。
「可哀想になぁ……。どこの馬の骨か知らないが、悪い男に騙されちまうなんてよぉ。まだ17だったんだろ? 酷ぇ男もいたもんだ、なぁ」
「はぁ……」
「みんな噂してるぜ。ランドセル背負って、一生懸命奉公してたのによ……。あんた、昔から可愛がってただろ? 力になってやんな」
「はい」
適当な返事を返しながら、望はこっそり溜め息を吐いた。これはまた悲劇のヒロインに祀り上げられちまったもんだな。そんなに可哀想なら、放って置いてやれ、ってんだ。
曖昧に、当たり障りないように。
受け流して答えながら店を出る。道端会議をしている主婦の塊がいくつか見えたが、適当に挨拶をして後にする。
「駄目よ、瑠那ちゃん。気をしっかり持たなくちゃあ」
――ん?
聞き覚えのある名前を耳にして、望はまた足を止めた。
「はぁ……」
「はぁ、じゃなくて。あなたも葵さんたちにいろいろとお世話になったじゃないの。ここまで育ててもらったんでしょう?
断りもなしに子供を造らせて放って置くなんて、そんな駄目な男に騙されたら駄目よ」
「……」
「ちゃんと学校に行って、ちゃんとした人と結婚して、苦労なく暮らさなくちゃあ。それが一番の恩返しよ」
「はぁ……」
矢継ぎ早に言葉を並べる初老の女性に、対面する見知った少女(と言える年齢は些か過ぎてしまったが)は、徐々に目立ちつつある腹を押さえながら、生返事を返している。大根の葉が出ているトートバッグを見ると、買い物帰りに捕まってしまったのだろう。
「もっと葵さんや咲也さんの気持ちも考えてあげなくちゃあ。後ろ指を指されるようなことをするのは、一番の親不孝よ」
遠回しに堕ろして置けば良かったのに、とでも言いたいのだろうか。葵や咲也の気持ちをわかってないのはどっちだよ。
体裁は繕っているものの、少女の表情の温度がどんどん冷えていくのを感じる。
「わかった? あなたも大人にならなくちゃあ、駄目よ」
望は溜め息を吐いた。これ以上、妊婦にストレスをかけるわけにいかないだろう。わざと靴音を立て、割って入ろうとして、
「……あの」
生返事だけで、黙っていた少女が口を開いた。口元で笑みを作り、彼女は頭を下げる。
「ご心配ありがとうございます。義母ともいろいろと話をしていますから。そのうち、いいご報告が出来ると思います」
「……」
彼女はそのまましばらく頭を下げていた。少女とは言えなくなったが、まだ19歳だ。それが、
「なら、いいんだけど。私が口を出すようなことでもないからね」
――思いっきり口出ししておいてよく言うよ。
「じゃあね、お義母さんにきちんと親孝行するのよ」
「はい」
女性はそれで満足したのか、小太りの身体をゆさゆさと揺らしながら、鼻歌交じりに商店街の方へ歩いていった。本人にとってはいいことをしたつもりなんだろう。やれやれ。
少女の方は深々と溜め息を吐くと、帰り道に戻る。
「あ」
「……」
こちらに気づいた。
「……見てた?」
「……うん」
「あーん♪」
縁側に腰掛けた少女は、幸せそうな表情でみたらしの団子を頬張った。小柄でスレンダーな体型に似合わず、甘いものは別腹と言わんばかりに甘党な彼女は、満足げに緑茶へ手を伸ばした。
「現金だなぁ」
「マズイ顔して食べたら、団子屋のおっちゃんにも犠牲になった食材にも申し訳立たないでしょーが」
「そりゃあ、まあ、そうだけど」
「それにしてもたまには気が利くじゃない。めっきりマスカルポーネチーズと生クリームの虜になってたけど、団子粉の飽きない味も忘れられなくてさぁ」
「はいはい」
あっさり一串平らげて、餡子の串を取る。
「まったく、本当に妊婦か? 悪阻と無縁だな」
「これでも好きなもん以外は喉通らないのよ。ま、それほど酷くないけど」
苦笑いしながら彼女はまた緑茶をすする。曖昧に笑った顔が、一昔前の無理をした笑顔に被った。
「しかしなぁ……ついこの前までランドセル背負った小学生だと思ってたのになぁ」
「あんた、咲也が初めて妊娠したときも同じようなこと言ってたじゃないの」
「悪かったな、成長してなくてさ」
「そうよ。私よりいくつ年上なのよ、あんたは」
2年経っても可愛くない言動は相変わらずで。でも以前、声に篭っていた嫌味さ加減が不思議と綺麗に消えていた。
ランドセルを背負って、小さな巫女の礼服でお茶汲みをしていた頃。微笑みながら、どこか自分の周りにある世界そのものを恨むような目をしていた少女が。
「母親、だもんなぁ」
「何回言うつもり?」
「いや、だってさ。結構ショックでもあるんだぜ? こっちはお前が腰くらいの背しかなかったときから知ってるし、ふっといなくなったと思えば、いきなり子供、なんてさ」
「……」
「……あ、悪い。別に、責めてるんじゃないんだ。ただ、何て言うか……」
言い澱んだ望に、彼女は観察すような目を向けて、それから小さく噴き出した
「気なんか使わなくていいって。どうせ使ったところで、ぽしゃって格好つかないのが高山望じゃない」
「え、何それ、何か酷くない?」
しれっと軽口を叩く彼女は、湯のみを置いて一度深呼吸をした。夏も過ぎて、徐々に色づき始めた桜の葉を仰ぐ。
「……皆には悪いことをしたと思ってる。高校生がいきなりいなくなって、子供作って帰ってくるなんてさ。
世間への聞こえなんかいいわけないし、義母さんたちに心配かけたのも知ってる」
「瑠那、おい」
「わかってる。義母さんたちは私の好きにするのが一番だ、って言うんだろうって」
「……」
「だから好きにする。後ろ指差されようと、脈絡ない説教されようと、この子は産んで育ててやるわ」
少々、毒気すら匂わせるような笑みを口元に浮かべて、彼女は言った。望は目を瞬かせて、彼女の顔を凝視した。
「昔、あれだけ俺の言うことはおろか、葵さんの言うことさえ聞かなかった子供がなー」
「何言ってるの。変わったつもりはないわ。
もし万が一、義母さんが見合い写真を出して来たって、私はこのわがままだけは通らせてもらった」
「……」
「……私ね、ずっと思ってた。何で私の両親は私を置いていったんだろう、って。育てられないくらいなら、最初から産まずに堕ろせば良かったじゃないか、って」
「……瑠、」
「今もそれは変わらない。自分で産んだ子を途中で投げ出して、知らないふりして生きていけるなんて思えない」
「……」
「でも、でもね」
「……今なら、ほんの少しだけ、わかってやれる気がする。どんな事情かは知らないけれど、解って、やれる気がするんだ」
「……」
目を細めてお腹を撫でる彼女の横顔は、もう少女のそれではなく。
――まだ19、なのにな。
よく見知った彼女の義母や、義理の姉とも似た、母親のそれだった。
呆れたように深い息を吐く。
「まったく、早く親父の顔が見てみたいぜ。よっぽどとんでもない奴なんだろうな」
「そうねえ、少なくとも顔はあんたの数倍いいかな」
「え、それ何。俺の取り柄いきなり蹴落とされた?」
「あと頭も一流。悪知恵の方だけどね。でも、その他はてんでダメ。性格悪いし、態度はでかいし、口は減らないし、分かる通りに手は早いし」
「滅茶苦茶言うな、おい」
「ああ、あと基本的にがめついし。二言めには金、金。金稼ぎには文字通り、どんな手段も厭わない、って奴」
「……近所のおばさんでなくても、文句の一つも言いたくなるわ、そりゃあ」
思わず本音が出た。それでも瑠那は悪戯が成功した子供のようにきしし、と笑う。
「だってしょうがないじゃない。誉めるところが少ない上に、昔から誉めるのは得意じゃないの」
「……」
望は苦笑いをしてがしがしと頭を掻いた。昔と変わった、そう思った。けれど、
「……よっぽど惚れたんだな、その旦那」
天邪鬼は相変わらずで、何となく安心した。
「……良かったな、瑠那」
肯定を意味する自信の微笑みは、きっとその異国のとんでもない奴に教わったものなのだろうけど。
「ありがとう」
丁寧に包まれた紫色の包みを受け取って、望はにこやかに礼を返した。みたらしの甘く、香ばしい匂いと、餡子の甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。
「何だかいつもより多いねぇ」
望の両手にぶら下がるお土産の量に、団子屋の主人が呆れたような口調で言う。
「長らく日本にいなかった子が、ようやく帰って来たんで……」
「ああ、瑠那ちゃんだろ? 見つかって良かったねぇ。うちのなんか死んじまったんじゃないか、なんて縁起でもねぇこと言いやがってよぉ」
目尻を下げる主人に、望は曖昧な返答と曖昧な笑顔で答えた。彼女がいなくなったとき、根も葉もない噂が飛び交ったのは知っている。やれ、男と駆け落ちしてどこか遠くに行ってしまっただの、やれ、外の娘が神社に触れたものだから神隠しに合っただの。
女子高生の失踪だ。適当な言い訳で取り繕ってみても、好き勝手な噂が流れるのは止められなかった。同情の奥に隠れた噂に、当時の葵も咲也も心痛めていたことを望は知っている。
「けど、見つかったはいいが妊娠してる、ってのは本当かい?」
「……ええ、まあ……らしいですね」
主人は狭い店内で、声を潜めながら話しかけてきた。
「可哀想になぁ……。どこの馬の骨か知らないが、悪い男に騙されちまうなんてよぉ。まだ17だったんだろ? 酷ぇ男もいたもんだ、なぁ」
「はぁ……」
「みんな噂してるぜ。ランドセル背負って、一生懸命奉公してたのによ……。あんた、昔から可愛がってただろ? 力になってやんな」
「はい」
適当な返事を返しながら、望はこっそり溜め息を吐いた。これはまた悲劇のヒロインに祀り上げられちまったもんだな。そんなに可哀想なら、放って置いてやれ、ってんだ。
曖昧に、当たり障りないように。
受け流して答えながら店を出る。道端会議をしている主婦の塊がいくつか見えたが、適当に挨拶をして後にする。
「駄目よ、瑠那ちゃん。気をしっかり持たなくちゃあ」
――ん?
聞き覚えのある名前を耳にして、望はまた足を止めた。
「はぁ……」
「はぁ、じゃなくて。あなたも葵さんたちにいろいろとお世話になったじゃないの。ここまで育ててもらったんでしょう?
断りもなしに子供を造らせて放って置くなんて、そんな駄目な男に騙されたら駄目よ」
「……」
「ちゃんと学校に行って、ちゃんとした人と結婚して、苦労なく暮らさなくちゃあ。それが一番の恩返しよ」
「はぁ……」
矢継ぎ早に言葉を並べる初老の女性に、対面する見知った少女(と言える年齢は些か過ぎてしまったが)は、徐々に目立ちつつある腹を押さえながら、生返事を返している。大根の葉が出ているトートバッグを見ると、買い物帰りに捕まってしまったのだろう。
「もっと葵さんや咲也さんの気持ちも考えてあげなくちゃあ。後ろ指を指されるようなことをするのは、一番の親不孝よ」
遠回しに堕ろして置けば良かったのに、とでも言いたいのだろうか。葵や咲也の気持ちをわかってないのはどっちだよ。
体裁は繕っているものの、少女の表情の温度がどんどん冷えていくのを感じる。
「わかった? あなたも大人にならなくちゃあ、駄目よ」
望は溜め息を吐いた。これ以上、妊婦にストレスをかけるわけにいかないだろう。わざと靴音を立て、割って入ろうとして、
「……あの」
生返事だけで、黙っていた少女が口を開いた。口元で笑みを作り、彼女は頭を下げる。
「ご心配ありがとうございます。義母ともいろいろと話をしていますから。そのうち、いいご報告が出来ると思います」
「……」
彼女はそのまましばらく頭を下げていた。少女とは言えなくなったが、まだ19歳だ。それが、
「なら、いいんだけど。私が口を出すようなことでもないからね」
――思いっきり口出ししておいてよく言うよ。
「じゃあね、お義母さんにきちんと親孝行するのよ」
「はい」
女性はそれで満足したのか、小太りの身体をゆさゆさと揺らしながら、鼻歌交じりに商店街の方へ歩いていった。本人にとってはいいことをしたつもりなんだろう。やれやれ。
少女の方は深々と溜め息を吐くと、帰り道に戻る。
「あ」
「……」
こちらに気づいた。
「……見てた?」
「……うん」
「あーん♪」
縁側に腰掛けた少女は、幸せそうな表情でみたらしの団子を頬張った。小柄でスレンダーな体型に似合わず、甘いものは別腹と言わんばかりに甘党な彼女は、満足げに緑茶へ手を伸ばした。
「現金だなぁ」
「マズイ顔して食べたら、団子屋のおっちゃんにも犠牲になった食材にも申し訳立たないでしょーが」
「そりゃあ、まあ、そうだけど」
「それにしてもたまには気が利くじゃない。めっきりマスカルポーネチーズと生クリームの虜になってたけど、団子粉の飽きない味も忘れられなくてさぁ」
「はいはい」
あっさり一串平らげて、餡子の串を取る。
「まったく、本当に妊婦か? 悪阻と無縁だな」
「これでも好きなもん以外は喉通らないのよ。ま、それほど酷くないけど」
苦笑いしながら彼女はまた緑茶をすする。曖昧に笑った顔が、一昔前の無理をした笑顔に被った。
「しかしなぁ……ついこの前までランドセル背負った小学生だと思ってたのになぁ」
「あんた、咲也が初めて妊娠したときも同じようなこと言ってたじゃないの」
「悪かったな、成長してなくてさ」
「そうよ。私よりいくつ年上なのよ、あんたは」
2年経っても可愛くない言動は相変わらずで。でも以前、声に篭っていた嫌味さ加減が不思議と綺麗に消えていた。
ランドセルを背負って、小さな巫女の礼服でお茶汲みをしていた頃。微笑みながら、どこか自分の周りにある世界そのものを恨むような目をしていた少女が。
「母親、だもんなぁ」
「何回言うつもり?」
「いや、だってさ。結構ショックでもあるんだぜ? こっちはお前が腰くらいの背しかなかったときから知ってるし、ふっといなくなったと思えば、いきなり子供、なんてさ」
「……」
「……あ、悪い。別に、責めてるんじゃないんだ。ただ、何て言うか……」
言い澱んだ望に、彼女は観察すような目を向けて、それから小さく噴き出した
「気なんか使わなくていいって。どうせ使ったところで、ぽしゃって格好つかないのが高山望じゃない」
「え、何それ、何か酷くない?」
しれっと軽口を叩く彼女は、湯のみを置いて一度深呼吸をした。夏も過ぎて、徐々に色づき始めた桜の葉を仰ぐ。
「……皆には悪いことをしたと思ってる。高校生がいきなりいなくなって、子供作って帰ってくるなんてさ。
世間への聞こえなんかいいわけないし、義母さんたちに心配かけたのも知ってる」
「瑠那、おい」
「わかってる。義母さんたちは私の好きにするのが一番だ、って言うんだろうって」
「……」
「だから好きにする。後ろ指差されようと、脈絡ない説教されようと、この子は産んで育ててやるわ」
少々、毒気すら匂わせるような笑みを口元に浮かべて、彼女は言った。望は目を瞬かせて、彼女の顔を凝視した。
「昔、あれだけ俺の言うことはおろか、葵さんの言うことさえ聞かなかった子供がなー」
「何言ってるの。変わったつもりはないわ。
もし万が一、義母さんが見合い写真を出して来たって、私はこのわがままだけは通らせてもらった」
「……」
「……私ね、ずっと思ってた。何で私の両親は私を置いていったんだろう、って。育てられないくらいなら、最初から産まずに堕ろせば良かったじゃないか、って」
「……瑠、」
「今もそれは変わらない。自分で産んだ子を途中で投げ出して、知らないふりして生きていけるなんて思えない」
「……」
「でも、でもね」
「……今なら、ほんの少しだけ、わかってやれる気がする。どんな事情かは知らないけれど、解って、やれる気がするんだ」
「……」
目を細めてお腹を撫でる彼女の横顔は、もう少女のそれではなく。
――まだ19、なのにな。
よく見知った彼女の義母や、義理の姉とも似た、母親のそれだった。
呆れたように深い息を吐く。
「まったく、早く親父の顔が見てみたいぜ。よっぽどとんでもない奴なんだろうな」
「そうねえ、少なくとも顔はあんたの数倍いいかな」
「え、それ何。俺の取り柄いきなり蹴落とされた?」
「あと頭も一流。悪知恵の方だけどね。でも、その他はてんでダメ。性格悪いし、態度はでかいし、口は減らないし、分かる通りに手は早いし」
「滅茶苦茶言うな、おい」
「ああ、あと基本的にがめついし。二言めには金、金。金稼ぎには文字通り、どんな手段も厭わない、って奴」
「……近所のおばさんでなくても、文句の一つも言いたくなるわ、そりゃあ」
思わず本音が出た。それでも瑠那は悪戯が成功した子供のようにきしし、と笑う。
「だってしょうがないじゃない。誉めるところが少ない上に、昔から誉めるのは得意じゃないの」
「……」
望は苦笑いをしてがしがしと頭を掻いた。昔と変わった、そう思った。けれど、
「……よっぽど惚れたんだな、その旦那」
天邪鬼は相変わらずで、何となく安心した。
「……良かったな、瑠那」
肯定を意味する自信の微笑みは、きっとその異国のとんでもない奴に教わったものなのだろうけど。
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